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法務の先進企業2社の事例から見る、“企業価値向上に直結する法務力強化”のヒント【イベントレポート後編】

企業の法務やリスクマネジメントにおいて、コンプライアンスは極めて重要です。また、コンプライアンスを徹底することは、企業の成長にもつながります。本記事では、レクシスネクシス・ジャパン株式会社が2023年5月に開催した“LexisNexis® ASONEコンプライアンス・サーベイ発売記念イベント コンプライアンスは企業をどう成長させるか?”の内容をご紹介し、コンプライアンスやリーガルテックを自社の成長戦略に活かすためのヒントを全3回にわたってご紹介します。

最終回の後編では、強い法務力を持つ企業の法務責任者の方と、数多くの企業コンプライアンスを支援する法律専門家によるパネルディスカッションをご紹介。各企業の取り組みなどを通じて、法務と経営陣・事業部門との連携や企業価値向上に直結する法務力強化のヒントをお伝えします。ぜひ、自社のコンプライアンス対策にお役立てください。

登壇者プロフィール(登場順)

オムロン株式会社グローバルリスクマネジメント・法務本部/オムロンヘルスケア株式会社経営統轄部 法務部部長
川上健 氏

大手国内メーカー2社で法務部・経営企画部での経験を経て、2007年オムロン株式会社に入社。オムロングループのアジアパシフィックエリアのリスクマネジメント・法務責任者、米国Law School留学、オムロンソーシアルソリューションズ株式会社リスクマネジメントセンタ 副センタ長を経て、2023年4月より現職。

企業HP

  

シャープ株式会社
法務部 統轄部長
山崎理志 氏

1991年、シャープ株式会社に入社。電子部品事業本部(当時)を経て、1996年8月、法務部門に配属。契約関連業務を中心に、イタリアでの合弁会社設立、液晶子会社の株式売却、米国、韓国の大手企業からの出資受入れ、鴻海との資本提携などを担当。2019年4月からグローバル法務責任者に就任。2021年度より 関西学院大学法学部 非常勤講師。

企業HP

  

プロアクト法律事務所
代表パートナー弁護士・公認不正検査士
竹内朗 氏

1996年弁護士登録。現SMBC日興証券のインハウスローヤー等を経て、2010年プロアクト法律事務所を開設。専門は企業のリスクマネジメント、有事の危機管理、平時の内部統制、コーポレートガバナンス、ESG関連。複数の上場会社の社外役員、調査委員会の委員を歴任。2021年12月日本経済新聞社の企業法務税務・弁護士調査の「危機管理分野」で総合ランキング第10位に選出。

事務所HP

  

[ファシリテーター]
早川・村木 経営法律事務所
代表パートナー弁護士
早川明伸 氏

2005年弁護士登録。中島経営法律事務所のパートナーを経て、2015年早川経営法律事務所(現 早川・村木 経営法律事務所)開設。注力分野は、上場企業のリスクマネジメント、IPO準備企業の成長サポート。複数の調査委員会にて委員を歴任。HENNGE(株)社外監査役、(株)モンスターラボホールディングス社外監査役、Chatwork(株)社外取締役に在任。

事務所HP

自社の事業・組織に適した法務体制を整備

(早川)

今回、「企業価値向上に直結する法務力の強化の秘訣」というテーマで、コンプライアンス及びコーポレートガバナンスの先進企業であるオムロンさんとシャープさんの法務のトップの方々に来ていただきました。

それぞれの会社で、どのように非常に強い法務力を発揮されているのかをお伺いしたいと思いますが、まず会社の事業と法務組織について教えてください。

(川上)

オムロングループは全155社で、グローバルで約3万人の社員が所属しています。

主力事業の“制御機器事業”をはじめ、“電子部品事業”、駅の自動改札機などの“社会システム事業”、血圧計・体温計などの“ヘルスケア事業”という4つの事業をビジネスカンパニーと子会社という形で運営しています。

リスクマネジメント・法務の体制として、オムロン本社のグローバルリスクマネジメント本部に35名在籍しております。このセクションに、企画部・コーポレート法務部・リスクマネジメント部・事業コンプライアンス部(安全保障貿易管理課含む)の4部門があります。

また、4つのビジネスカンパニー内にも、それぞれ法務グループとリスクマネジメントグループがありまして、日本国内のオムロングループ全体で約70名のスタッフが所属しています。

さらに、海外にはアメリカ・EMEA・中国・アジアパシフィック(シンガポール)・韓国にエリア本社があり、それぞれの法務部でリスクマネジメント・法務活動を行っています。そして、各地に駐在員も派遣しています。

(早川)

シャープさんは、いかがでしょうか?

(山崎)

当社の事業部は、ブランド事業とデバイス事業にわかれています。ブランド事業には、家電などを扱う“スマートライフ&エナジー”、PCやオフィス関連ソリューションなどを提供する“スマートオフィス”、テレビやスマートフォンを扱う“ユニバーサルネットワーク”があります。

また、デバイス事業は、ディスプレイモジュールや車載カメラを扱う“ディスプレイデバイス”と、カメラモジュールやセンサーモジュールの“エレクトロニックデバイス”にわかれています。

法務機能は、社長直属の組織として法務部があります。私の上長はCFOですが、組織としては独立しています。そのなかで、『訴訟・通商』チームと『契約知財』チーム、そして『契約・コンプライアンスA』チーム、『契約・コンプライアンスB』チーム、『契約・コンプライアンスC』チームの5グループにわかれています。

『訴訟・通商』チームは、訴訟など法的紛争や通商案件を扱っています。『契約知財』チームでは、特許紛争を除く知財案件を担当。『契約・コンプライアンス』の3チームは、それぞれAチーム=BtoC、Bチーム=BtoB、Cチーム=デバイス事業というすみ分けで業務を行っています。

法務部全体で約70名が所属していて、さらにインハウスローヤーが13名います。

(早川)

なるほど、法務部がすべてを統括していらっしゃるんですね。どのような法務機能や役割をお持ちなのですか?

(山崎)

法務部の業務には、“契約関連・法律相談”“訴訟・通商対応”“コンプライアンス推進”があります。

契約に関しては、独自の法務部を持つ国内外のグループ企業もありますが、グループ約100社の全契約を本社法務部が審査しています。また、私の責任範囲はグローバル全体ということになっていますので、現地の各企業に法務がいる場合でも、重要な問題が発生した際に本社法務部が対応します。

コンプライアンスについては、本社に専門部署はなく、5つのグループのスタッフで全企業横断的に、特にリスクが大きい独禁法・個人情報保護・贈収賄の防止をメインに対応しています。

グローバル本社の法務部門が5つの機能を持ち、グループ企業と連携

(早川)

オムロンさんの法務セクションの機能や役割について教えてください。

(川上)

機能としては、“変化察知” “事業推進”“経営基盤”“危機対応”“リスク開示”の5つにわかれています。“変化察知”では法規制変化の把握・対応や、地政学リスクの事業への影響の評価・対策を行っています。

“事業推進”は、M&Aや出資、事業売却などの法務対応、新規事業の立ち上げ支援、契約のレレビュー・契約書作成・交渉などを行います。

そして、“経営基盤”はガバナンス的観点で、重要リスクの選定・対策、コンプライアンスプログラムを担当。“危機対応”では、訴訟・紛争、内部通報、危機事案に対応しています。

(早川)

シャープさんはいわゆる法務分野に特化した機能をお持ちですが、オムロンさんは法務とリスクマネジメントの両面を兼務されていらっしゃるんですね。

(川上)

おっしゃる通り、本社のグローバルリスクマネジメント・法務本部が両方を担っています。

(早川)

各ビジネスカンパニー・子会社でそれぞれ管理していて、その情報をグローバルリスクマネジメント・法務本部に共有していくという形ですか?

(川上)

はい。基本的には各カンパニー・子会社で完結するものはそれぞれの担当者が対応しています。そして、本社に報告が必要な項目がルールで決まっていますので、該当する場合は適宜連携しながら対応しています。海外の子会社につきましては、エリア地域本社の法務部門が見る体制です。

事業部ごとに対応した法務チーム体制で、経営戦略会議などにも参加

(早川)

シャープさんでは法務部が5つのグループにわかれているとのことでしたが、どのような体制をとっていらしゃるのですか?

(山崎)

たとえば、家電などBtoC事業を担当する契約・コンプライアンスAチームは、グループ長がいて、その下に白物家電やテレビ、通信事業といった各事業を担当するマネージャーがいます。

そして、スタッフに関しては、組織を細分化せずにすべてのBtoC事業を見ています。その目的は、幅広い事業の案件に携わることによって、スタッフそれぞれの専門性を高めていくためです。

その一方で、事業部側に対しては“法務の顔”がはっきりわかるほうが良いので、法務の窓口としてマネージャーを設置している形です。

(早川)

シャープさんのコーポレートガバナンス体制として“経営戦略会議”があるとお聞きしていますが、法務部との関係について教えていただけますか?

(山崎)

“経営戦略会議”は、契約・投資・M&A・訴訟紛争などの重要な案件に関して、意思決定手前の審議を行う会議体です。取締役会で話し合う案件も、経営戦略会議で審議したうえで取締役会にかけられますし、取締役会までいかない案件であっても重要なものについては“経営戦略会議”で審議を行います。

社長・副社長や役員で構成されていて、私もグローバル法務責任者として参加しています。

私は法務の立場での意見を求められますし、経営判断の妥当性なども含めて確認しています。そのように、経営陣と法務の距離が非常に近い環境です。社長は台湾出身でグローバルな視点を持っていて、海外にも大株主がいますので、法務というファンクションに対する意識は高いですね。

(早川)

さらに、経営陣に対する月次報告会にも、法務の方が参加されているのですよね?

(山崎)

はい、法務の5チームの全マネージャーが同席します。そこで、経営状況や年間目標に対する進捗状況などを報告するのと同時に、ビジネスの状況や課題などに関する認識を共有しています。

(早川)

そんなふうに法務のマネージャークラスの方々が経営陣への月次報告会に参加されるのは、非常に珍しいのではないでしょうか。山崎さんの経営戦略会議への参加なども含めて、経営陣の方々が法務を非常に重視して、頼りにしていらっしゃるのだなと感じました。

グループ共通の23の倫理行動ルールを制定し、各事業部門と密に連携

(早川)

オムロンさんは、グループ共通のガバナンスインフラとして『OGR』というものを定めていらっしゃるのですよね?

(川上)

はい。『OGR(オムロン・グループ・ルール)』というものをつくっています。当グループは「公正かつ透明性の高い経営をする」と宣言しておりまして、それを実現する経営基盤としてOGRを活用しています。

OGRは“法人運営・ブランド管理”“事業を支える機能”“事業プロセス”を3つの軸として構成され、全社員が守るべき行動規範を定めた倫理行動ルールを含めると、23のルールがあります。そして、グループ企業の社員全員がOGRに沿って事業を運営しています。

(早川)

なるほど。法務部門と事業部門との関係性については、どのようになっていらっしゃいますか。

(川上)

私の担当しているヘルスケアビジネスの法務部門では、年間1000件以上の法務相談を受けています。そして、打ち合わせなどを日々繰り返して、事業部門に密接に伴走し、寄り添いながら事業を進めています。

(早川)

日常的に事業の動きを把握できるということですね。自社のコンプライアンス強化の取り組みとしては、どのような研修を行っていらっしゃいますか?

(川上)

グループ全体で毎年10月を“企業倫理月間”と定めて、全社員が受講すべき研修を本社で企画・実施しています。

また、各ビジネスカンパニー・子会社が独自にコンプライアンスの取り組みも行っています。例えば、あるビジネスカンパニーでは、社内ルールとコンプライアンスの基本的研修を毎年実施して、契約や販売コンプライアンスなどの入門編と実務編の研修を3年サイクルで行って継続的な施策で定着を目指しています。

(早川)

両社さんともに、法務部門と事業部門との関係性が強いのが特徴ですね。やはり、法務部門が経営陣や事業部門に対してしっかりと意見を述べることができて、自社の企業価値向上において意味のある組織でいることが必要だと感じました。

経営や事業の現場に、法務部門が寄与するために

(早川)

さまざまな企業の法務に携わっている竹内さんの観点から、経営陣・事業部門と法務部門の関係についてお聞かせください。

(竹内)

企業価値向上において、法務部門が「経営に対して、どれだけ寄与できるか」というの観点からお話しします。

まず、経営に対する部分では、以下のような提案を行っています。

※プロアクト法律事務所 資料より

先ほど、2社さんともに経営に非常に近い立ち位置で、経営に対して大きな価値を生み出しているというお話がありました。同様に、取締役会事務局に法務スタッフが参加することで、さまざまな貢献ができると思っています。

たとえば、経営判断原則において、議案に係る情報の収集・分析・検討が十分になされれば、もし後々にその議案で損失が生じたとしても役員は免責されます。

そのための役割を担うのが取締役会事務局で、その機能にもっとも長けているのが、リーガルのバックグラウンドを持つ法務スタッフだといえるでしょう。経営判断原則をしっかり実践することで、自社や役員を守ることができるはずです。

私の経験上、取締役会で議論を紛糾させないために、「リスクを明確にしない“きれいな形”で議案を出す」ということも珍しくないと感じています。

たとえば、すでに経営会議では議論がなされているのに、取締役会時には“きれいな形”に変えられてしまっていて、実際はその議案の裏に多くのリスクが隠れていることがあります。

そのようなリスクをきちんと明確にしたうえで、「対策によってここまでリスクを下げられたが、まだ残っているリスクをどうするか」という議論を行うのが、取締役会の本来の姿です。そのリスクテイクに寄与できるのが法務部門だと、私は考えています。

また、ステークホルダーの代表である社外役員にきちんとリスクを明示して、客観的な目線で「このリスクが取れるか」ということをジャッジしてもらうことも必要です。

(早川)

法務として取締役会事務局を担う場合、そのような点で経営に貢献できるのですね。

(竹内)

やはり、取締役会事務局は非常に重要だと思います。「リスクを隠さず明確にする」ことの重要性を付議する部署に伝えることも、事務局に期待される大切な役割です。

また、「重要な経営戦略の裏には重要な経営リスクがある」「戦略とリスクは表裏である」ということをきちんと理解することも重要です。

※プロアクト法律事務所 資料より

どの会社も中期経営計画をつくって、「何年後に、これだけの売上・利益を上げます」という数字を出していると思います。

しかし、投資家が知りたいのは、「その裏にどんなリスクがあるか」「どのようなことがリスクの原因か」「その原因を認識しているか」「どうコントロールして戦略を実現していくのか」ということです。

ですから、戦略の一面だけを明示するのではなく、その裏にある“リスク”と“対策”の両面も伝えることが、投資家の納得度を高めるといえます。

経営リスクマネジメント体制や活動について、たとえば有価証券報告書や統合報告書で事業のリスクなどを開示することで投資家の納得度を高められ、それが企業価値の向上につながります。

これからの企業法務の将来像は?

(早川)

ここまで法務力強化をテーマにお話をお伺いしてきましたが、ChatGPTなども話題になっているなかで、今後の企業法務の形についてお聞きしたいと思います。オムロンの川上さんはどのようにお考えですか?

(川上)

私が個人的に感じていることですが、法務やリスクマネジメントに一度携わると、その分野でずっとキャリアを積んでいくひとが多いのではないかと思っています。しかし、その分野以外にも活躍できるキャリアアップの道があるのではないかというのが、私の考えです。

たとえば、法務やリスクマネジメントに携わっていると、法律というバックグラウンドに基づいたリスク感度が高まるため、経営人材になれるんじゃないかと思っています。

また、監査部門との親和性も高いですし、M&Aの経験を多く積んでいれば企画・戦略の部門で活躍することも可能でしょう。

今後、働き方が大きく変わっていくなかで、法務としてのキャリアアップだけでなく、法務・リスクマネジメント以外へのスキルチェンジ・キャリアアップも非常に重要だと思います。そのように、私は法務部門を「優秀な人材をオムロングループ全体に供給できる部門にしていきたい」と考えています。

(早川)

法務セクションでキャリアを積んだ人材が、事業部門でも活躍できる可能性があるということですね。シャープの山崎さんが考える将来の法務像は、どのようなものでしょうか?

(山崎)

今回のイベントの冒頭で(レクシスネクシス・ジャパン株式会社の)パスカル・ロズィエ社長がおっしゃっていましたが、日本の企業のリソース不足が進んでいるなかで、日本企業はさらに海外進出やインバウンドの取り込みを行う必要があると思っています。

また、市場のグローバル化が進んで、リソースに差がある海外企業との競合を通じて、私たちの事業環境も大きく変わる可能性があります。そして、日本の企業の法務に関するリソースはさらに不足していくと考えられます。

そのような状況で、ChatGPTなどのAIや『LexisNexis® ASONE』などのITツールは、非常に有効だと思います。

活用できるものはすべて使って効率化を進めていくのと同時に、組織の拡大もあわせて行っていくことが必要になるのではないでしょうか。

私たちシャープは、『世界で輝く法務組織』を目指して、“クオリティ”“信頼性”“経営貢献”“スタッフが楽しんでる”など8つのNo.1を達成する」という目標を掲げています。

若い法務人材が「これで世界一といえるのか?」「どうすれば世界一になれるのか?」といった議論を続けていくことで、組織として良い方向に進んでいけるだろうと考えています。

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