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“NFTビジネス”の現状と日本政府の取り組み、6つの法務課題とは?(セミナーレポート前編)

2021年に約75億円もの高値がついた作品が現れるなど、世界的に人気が高まっている “NFTアート”。そのほかにも、ブロックチェーン技術を基盤とする“NFT(非代替性トークン)”は、新しいビジネス領域として大きな注目を集めています。

また、2022年6月に閣議決定された『経済財政運営と改革の基本方針2022』(『骨太の方針2022』)にも、NFTの利用など“Web3.0”の推進に向けた環境整備の検討を進めることが盛り込まれました。

官民ともにNFTビジネスを取り巻く動きが活発になるなか、NFTの現状や法務課題に関心をお持ちの方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は2022年9月に開催されたリアルイベント『事業創造とリーガル・コンプライアンス 【NFTビジネスの法務課題】』の内容をご紹介します。(前・後編)

登壇者プロフィール(登壇順)

  • 松田雅仁/レクシスネクシス・ジャパン株式会社 マーケティングダイレクター
  • 熊谷直弥 氏/弁護士法人GVA法律事務所 シニアアソシエイト弁護士
  • 鈴木景 氏/弁護士法人GVA法律事務所 パートナー弁護士 (本イベント後半に登壇)

詳細プロフィール

弁護士法人GVA法律事務所
パートナー弁護士 鈴木 景 氏

2009年弁護士登録。都内事務所からインハウスローヤーを経て、2017年GVA法律事務所入所。スタートアップ企業の立ち上げ支援から、成長支援、IPO・M&Aの出口支援、IPO後のさらなる成長支援まで幅広くサポート。主に新規事業開発における事業伴走を得意とする。取扱い領域は幅広いが、昨今では、暗号資産、NFT関連ビジネスに関する法務支援実績も多数。

  

弁護士法人GVA法律事務所
シニアアソシエイト弁護士 熊谷 直弥 氏

2012年の弁護士登録以来、一貫して企業法務を扱う。中小企業から上場企業まで広く担当し、契約法務、人事労務、紛争、渉外法務、商標等で研鑽を積む。2019年GVA法律事務所入所後、スタートアップ企業の法務支援に注力し、IPOやその先の成長までの伴走を複数経験。顧問先スタートアップSaaS企業の監査役を務める。所内のWEB3.0チームのリーダーとして、NFT関連ビジネスや暗号資産、STO、その他トークンビジネス等の研究及び実務対応を行っている。NFT書籍の監修の他セミナー等でのNFTに関する情報発信も多数。

  

レクシスネクシス・ジャパン株式会社
マーケティング部ダイレクター 松田 雅仁

マーケティングリサーチ/戦略立案などを経て、その後、外資IT企業アジアパシフィック地域チームで、プロダクトマーケティングに従事。国内大手通信系企業で経営管理・企画責任者を務めた後、現職。

電動キックボードなどの登場で、法規制に変化が

最初に、私、レクシスネクシス・ジャパンの松田から「新規事業とリーガルへの期待」というテーマでお話しさせていただきます。当社は、『LexisNexis Japan Governance Day』というイベントを2021年11月から開催しています。今年7月には、昨今話題になることが多い「社会実装とレギュラトリー(規制)」をテーマに、「事業推進とリーガル・コンプライアンス」と題した2回目のイベントを開催しました。

最新技術を用いた新ビジネスの直近のケースといたしまして、電動キックボードに関する「改正道路交通法による規制緩和の施行(2024年頃予定)」を存じの方も多いかと思います。また、ドローンに関しても、有人地帯における目視外飛行に向けた航空法の整備や、配送サービス実現のための取り組みが進められています。

最新技術を用いた事業展開により、法務機能への期待が増大

本日のメインテーマであるNFT(非代替性トークン)についても、所有権や暗号資産該当性、販売方法における賭博罪の該当性など、NFTビジネスを進めるうえでの法整備に関するさまざまな議論が進んでいます。これらのケースを見ると、最新技術の導入は社会的・文化的なインパクトを与えるため、社会実装に向けて何らかの規制による対応が必要になるといえます。

新たな規制が実施されれば、たとえば「製品販売後に問題が発生して、リコール対応で多大なコストが生じる」といった可能性も出てきます。そのような事態を避けるためには、事前の開発段階での問題処理が必要になり、法務・コンプライアンス部門に対する期待が大きくなっているのが現状です。

リサーチではなく、クリエイティブな法務業務を行うために

NFTのような新しいデジタル技術に関する法務対応について、株式会社コロプラ様の事例 をご紹介します。同社は、ゲームアプリ開発事業と投資事業を行っていらっしゃる企業です。最新のテクノロジーによって新しい領域で事業を行うため、法務部門では「法情報モニタリングにリソースを割かれてしまう」「新しくできる規制への対応に追われる」といった課題を抱えていました。

そこで、当社の『LexisNexis® ASONE(レクシスネクシスアズワン)』などの外部ソリューションを活用して、業務効率化やコンプライアンス対策、環境整備を行うことで、経営陣や現場に対して法務部門としてのプレゼンスを上げる取り組みを行っています。これらによって、法務部門が「リサーチがメインではなく、クリエイティブな部分での法務の仕事をする」ことが可能になります。

ここからは、メインセッションの「自民党NFTホワイトペーパーから読み解く、NFTビジネスの法務課題」として、弁護士法人GVA法律事務所の弁護士・熊谷直弥先生にご登壇いただきます。

約75億円のNFTアートが出現

<前編のご登壇: 熊谷直弥氏>

私はスタートアップ企業の法務支援を主業務に、当事務所内の専門チーム『WEB3.0チーム』のリーダーとしてWEB3.0分野の法務支援に注力しています。特にNFT案件を中心に担当している立場から、最初に現在のNFTビジネスの状況についてご紹介します。

NFTとは「Non-Fungible Token」の略称で、日本語では「非代替性トークン」と訳されます。「ブロックチェーン技術を活用して、発行される1点ごとに、固有の価値を有するデジタルの保有証明書」とも言い換えられます。たとえば、大流行しているデジタルアート『NFTアート』の場合は“デジタルの鑑定書”をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。NFTが世界的に大きな注目を集めたきっかけは、2021年にNFTアートの高額取引事例が多数出現したことです。

たとえば、『Crypto Punks』というNFTアートが、オンラインオークションで1700万ドル(約18億5000万円)で落札。アメリカを中心に有名人などがSNSのアイコンなどに使用し、一つのステイタスとして流行しています。また、デジタルアーティストのBeepleによる『Everydays The First 5000 Days』という作品は、約6935万ドル(約75億円)の高値がつきました。

“1点モノとしての価値”を獲得し、バブル的過熱に

従前のデジタルアートがあまり注目されてこなかった理由として、「複製が容易で、希少性に乏しい」という問題がありました。“1点モノとしての価値”がなく、そこにお金を払うことは考えづらいものでした。しかし、NFTアートは、ブロックチェーンによる「耐改ざん性」と「取引履歴の透明性」で、1点モノとしての希少性の獲得を実現しています。

厳密には、“1点”とは限らず、複製されることもありますが、版画のように1点1点にシリアルナンバーが入ります。そうすることで、「世界に一人、自分だけが持っている1点モノ」という希少性と財産的価値を生み出しているのです。また、従前のデジタルアートは、転々譲渡されていくなかで生じる価値上昇が著作者に還元されません。一方、NFTアートでは、ブロックチェーン上で自動的に契約を実行する『スマートコントラクト』という仕組みを使って、転売される過程で生じる利益の一部を著作者に還元する仕組みをつくることができます。

この仕組みが「クリエイターの応援」として受け入れられたことも、流行の理由の一つだと言えるでしょう。このように、1点モノのデジタルアートに世界が注目し、多額の投機資金の流入もあって、2021年は「バブル的過熱」ともいえる状況になりました。

転々譲渡の記録が残り、取引の様子を監視可能

NFTは、『ビットコイン』と並んで暗号資産の名称として有名な『イーサリアム(ETH)』というブロックチェーン技術の規格『ERC-721』などに則って作成されることが主流です。「保有者の情報」のデータと、デジタルアートの画像データ(もしくは画像データへのリンク情報)がセットになって、NFTは構成されています。転々譲渡された過程がすべて記録として残っていって、保有者の情報も引き継がれていくのが特徴です。

そして、誰でも参加できる“パブリックブロックチェーン”を使用することで、世界中から取引の様子を監視できて、取引の透明性も担保されます。

トレーディングカードやゲーム、チケットなど、幅広い活用事例も

NFTの活用事例として、現在もっとも流行しているものがデジタルアートです。先ほどご紹介した作品以外にも、コンピューターでさまざまなアイコンを自動生成できる『BAYC(Bored Ape Yacht Club)』というNFTアートも世界的に人気があります。また、トレーディングカードも人気が高く、アメリカ・NBA公認の『NBA Top Shot(トップショット)』が有名です。日本でも、プロ野球のパ・リーグや、アイドルグループのSKE48などのカードがあります。

そして、今年に入って流行の兆しを見せているのが、『GameFi』と呼ばれるNFTゲーム(ブロックチェーンゲーム)です。「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」というコンセプトで、歩くだけで暗号資産を獲得できるスマートフォンアプリ『STEPN』などが知られています。今後は、日本の優れたIP(知的財産)であるアニメやゲームのGameFi化が進むのではないかと予測されます。

さらに、チケットや会員権にも活用可能で、ジャニーズ事務所のコンサートチケットのNFT化も話題になりました。また、Jリーグのクラブチームなどでは「ファントークン」というデジタルトークンを発行して、所有者だけに特典を付与するなど、“コミュニティへの入り口”として活用しているケースもあります。

ほかにも、ファッション分野では、世界的な高級ブランドが「メタバース」と呼ばれる仮想空間で使用できる服やアクセサリーを『NFTファッション』として販売。現物所有権証明として、絵画や高級車、高級ワインなどの所有権の取引にNFTを活用するサービスを展開する企業もあります。

市場の急拡大を受けて、日本政府も取り組みをスタート

NFT市場の規模は、2022年で30億米ドル(約4200億円)、2027年には約4.5倍の136億米ドル(約1兆9040億円)に成長するのではないかと予測されています。そして、かなりの急成長分野ということで、日本政府もNFTに関する取り組みを進めています。

今年3月30日に、自由民主党デジタル社会推進本部NFT政策検討プロジェクトチームが『NFTホワイトペーパー Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略(以下、ホワイトペーパー)』を公表し、国としての施策への動きをスタートさせました。そして、6月7日に、政府方針としてNFTの振興を盛り込んだ『経済財政運営と改革の基本方針2022』(『骨太の方針2022』)が閣議決定され、翌月15日には経済産業省に『Web3.0政策推進室』が設置されました。

その後も活発な動きが続き、ブロックチェーン上の組織形態である『DAO(Decentralized Autonomous Organization。分散型自律組織)』といった分野も含めて、今後もさまざまな政策が推進されていくと見られます。

自民党の『ホワイトペーパー』におけるNFTの6つのテーマ

『骨太の方針2022』で、NFTは「社会課題の解決に向けた取り組み」「多極化・地域活性化の推進」という文脈のなかで取り上げられています。“多極化された仮想空間”への対応として、「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用など、Web3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める」「2023 年通常国会での関連法案の提出を図る」という内容が盛り込まれています。

また、先述の自民党の『ホワイトペーパー』では、6つのテーマで、全24の 論点について言及されています。

『①国家戦略の策定・推進体制の構築』では、「一元的に所管する官庁がない」という問題点を挙げ、Web3.0担当大臣や省庁横断組織、統一相談窓口の設置を提言しています。

『②NFTビジネスの発展に必要な施策』については法務的な内容が中心で、本イベント後半で取り上げるNFT関連の賭博に関する問題や、複数発行時の暗号資産への該当性などに触れています。また、 二次流通される場合の「ロイヤリティの収受関連の法律の整備の必要性」なども指摘されています。

『③コンテンツホルダーの権利保護』に関しては、コンテンツホルダーに無許諾でNFTを発行・販売する事案が頻発しています。さらに、現状のNFTの規格では「プラットフォームを横断して二次流通時のロイヤリティを受け取ることがむずかしい」ため、官民連携による対策が求められています。

2021年のバブル的過熱によってNFTが投資商品的に扱われる一方で、一般消費者にとっては「NFT取得で、どんな権利が得られるのか?」「勝手にSNSに上げてもいいのか?」など、よくわからない部分も多いのが現状です。そのため、『④利用者保護に必要な施策』として、安心して利用できる環境整備が必要だと提案しています。

『⑤NFTビジネスを支えるBCエコシステムの健全な育成に必要な施策』としては、「自社発行の保有トークンに対する時価評価課税の負担が非常に大きく、日本の有力なWEB3.0企業の海外流出につながっている」ことに対する提言などが行われています。この問題も、本イベントの後半で詳細にお話しします。

そして、『⑥社会法益の保護』に関して、現状ではNFTは規制が非常に少ない分野で、取引時の本人確認義務がないため、マネー・ローンダリングやテロ資金への供与などへの利用が懸念されています。

NFTビジネスを行う際に、法規制に関して注意すべきポイントは?

NFTに関連する法規制は、以下のように“業規制”“取引方法の規制”“取引の対象”に大別されます。

NFTを始めるにあたって、最初に行うべきことは「発行や取引などに必要な業登録の有無の確認」です。NFTは、元々はビットコインなどの暗号資産として取引されるものが中心だったため、さまざまな金融規制がかかっています。金融規制というものは非常に重たいため、もし発行に業登録が必要なNFTを無登録で発行してしまうと、即時に刑事罰で摘発される可能性もありますので注意が必要です。

業登録の要・不要は、「取り扱うNF Tが何に使えるか」という機能・用途で判断されます。「保有することでアートを鑑賞できる」、「自分のSNSのアイコンに使用できる」、「保有者限定のサービスを受けられる」、「商用利用できる」、「コミュニティ内の決済手段にできる」、「転売利益が期待できる」、「「収益分配が受けられる」などの機能や用途によって、法規制がかかるかどうかが決まります。

まずは簡易チェックをしましょう

適用される業規制を調べるために、まずは以下のようなチャート図を使った簡易チェックがお勧めです。このチャートでは右部分を私が追記していますが、元になったチャート図を含む『NFTビジネスガイドライン』を一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会のホームパージ でご確認いただけます。

https://cryptocurrency-association.org/nft_guideline/#01

上図の内容を補足しますと、最初の質問の「利益の分配があるか?」で“YES”の場合の『有価証券』は、現物でいえば株式などのイメージです。株式は、お金を払って取得すると、その企業の収益が株式の持ち分に応じて“配当”という形で分配されます。NFTも同様の性質を持つと判断される可能性があります。

たとえば、「映画製作のためにNFTを買ってくれたひとに興行収入を分配する」というケースは、“集団投資スキーム持分”として金融商品となり、金融商法上の電子記録移転権利の売買と見なされるおそれがあります。

そして、“NO”の場合の次の質問「決算機能等の、経済的手段を有しているか?」は、「そのNFTを商品・サービスの代金支払いに使えるか」ということです。

さらに、“YES”の場合の2番目の『暗号資産』について、NFTが2号暗号資産に該当する可能性も考えられます。2号暗号資産とは「そのNFT自体で決済できないが、1号暗号資産と交換することで決済手段になりうるもの」を指し、当該性があると判断された場合、その販売には業登録が必要になります。

しかし、トレーディングカードやゲームアイテムについては、該当性を原則として否定するパブリックコメントもあって、現状では不明確です。

3番目の『為替取引の一部』については、「NFTを送ることで、送金と同じような機能を得られる」という場合が想定されます。

上記の国内法における各金融規制に抵触する可能性があれば、暗号資産交換業の登録など、それぞれの分類に応じた登録や届け出が必要になります。

NFTは“所有”できない

一方で、NFTの利用者側に関して、日本の民法では「データは、所有権の対象である有体物(民法85条)に該当しない」ため、NFTを“所有”できません。そこで、“保有”という言葉に言い換えられることがありますが、NFTの保有は法律で一義的に決まるものではありません。そのため、“発行者と購入者との間の合意”や“NFTを発行するプラットフォームの利用規約などでの規定”などが必要です。

特に、デジタルアートでは著作権処理が重要になります。これらの注意点を踏まえて、NFTビジネスを進めていきましょう。

<後編へ続く>

関連情報

レクシスネクシスでは、法務コンプライアンスの様々な課題を解決する為のソリューション、『LexisNexis ASONE』を提供しております。ASONEは機能別に複数のモジュールで構成されています。『ASONE法政策情報(法情報データベース)』、『ASONEワークフロー(コンプライアンス点検ツール)』、『ASONE業務規定コネクト(社内規程管理ツール)』、『ASONEコンサルティング(個別のリスク対応)』、『ASONEエデュケーション(法務コンプライアンス教育)』に加え、2022年には『ASONEコンプライアンス・サーベイ(コンプライアンス分析ツール)』を新たにリリースしました。

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